- Q2.どのような病気に対して行われるのでしょうか?
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若年から壮年に生じる腰椎椎間板ヘルニアや中年期以降に生じる腰部脊椎症性神経根症、あるいは腰部脊椎症や腰椎すべり症などによって生じる腰部脊柱管狭窄(腰の骨が変形して神経の通り道が狭くなり神経が圧迫され、休み休みでないと歩けなくなる病気)など、こしの骨(腰椎ようつい)の中を通っている脊髄神経由来の痛み(おしり~ふともも~すね~足の痛み)を生じる疾患に対して行われます。
- Q3.なぜ行われるのでしょか?
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私たち医師は患者さんの訴え、診察所見、および画像検査を元に、現在の痛みがどの神経根から発生しているのかを推察します。腰神経根は5本あります。たとえば4番目と5番目の間にある椎間板ヘルニアでは、通常は5番目の腰神経根が圧迫され、腰や下肢に痛みが出ます。もし、5番目の腰神経根から痛みが発生しているのであれば、この神経根をブロックすれば、一時的かもしれませんが、痛みは完全に消えるはずであり、痛みの原因となっている神経は5番目の腰神経根であると診断できます。逆に、5番目の腰神経根にブロックを行っても症状がとれなければ、他の腰神経根が悪いと診断できます。
このように神経根ブロックには、診断と治療という二つの役割があるのです。
- Q4.神経根ブロックの診断としての役割は何でしょうか?
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たとえMRIなどの検査で腰椎に椎間板ヘルニアがみつかっても、必ずしもそれが症状に関係しているとは限りません。実際、症状に関係していない腰椎椎間板ヘルニアは、青壮年者の実に半数以上に認められるといわれています。このような理由から、症状の原因になっている神経根をずばり診断するのは簡単ではありません。しかし、神経根ブロックを行うことによって、痛みの原因となっている神経根を正確に診断することが可能です。神経根ブロックを行った後に、痛みが一時的に消失し、さらに他覚所見(腰を動かすと痛いなど)の改善が得られれば、その神経根が痛みの原因になっていると判定できるのです。
- Q5.治療としての役割はなんでしょうか?
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腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄の方の痛みの大部分は、内服薬や硬膜外ブロックによる治療によって、治療開始から2~3ヵ月経過すれば軽快します。しかし、なかには、内服薬や硬膜外ブロックを行っても症状が一向に良くならない方もいらっしゃいます。このような方は、医学的には手術を受ける必要があるかもしれない重症と考えられますが、神経根ブロックはこのような重傷な方に対しても治療効果が期待できます。ただし、治療手段として行われるうえでの原則があります。
一つは、馬尾障害に起因する症状には治療効果はないということです。馬尾とは、腰の神経を木にたとえますと、幹に相当する部分で(神経根は木の枝)、この馬尾が原因となっている症状に対しては、治療効果は期待できません。
第二には、初めて行われた神経根ブロックで、その効果が24時間以上続いた方では、神経根ブロックによる治療効果の持続が期待できるということです。注射によって痛みの原因となっている神経根がブロックされれば、痛みは一時的には確実に消えます。しかし、痛みが消失している時間には、ばらつきがあるのです。痛みが24時間以内に戻ってしまう方もいらっしゃれば、一度の神経根ブロックで痛みがすっかり消えて治ってしまう方もいらっしゃいます。神経根ブロック後、痛みが24時間以上楽になっている方では、神経根ブロックによる治療が有効である場合が多いので、何度か神経根ブロックを行うことが勧められます。一方、24時間以内に痛みが元に戻ってしまった方では、神経根ブロックの治療は効果がないと判断できます。
第三には、神経根ブロックによる治療の回数は、通常3回を限度とするということです。痛みの原因となっている神経根に何度も注射すると、神経根自体が注射により損傷を受けてしまうことがあるからです。同様に、麻痺が強い方の場合、注射により麻痺がさらに悪くなることがありますので、麻痺が強い方には神経根ブロックはできません。
- Q6.治療効果が期待できるのはどのような場合でしょうか?
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レントゲン写真の結果、腰の骨にずれやぐらつきがない腰部脊椎症性神経根症と診断された方での治療効果は高く、このような方に対して、神経根ブロックを行うと、症状が再発することも少ないことがわかっています。また、以前腰椎の手術を受けた方に対する治療手段の一つとしても有効です。また、腰部脊柱管狭窄(馬尾障害を除く)では、65歳以上の方では治療効果が高いといえます。腰の痛みに対する神経根ブロックは、明らかな治療効果があり、症状が持続する期間も短縮する効果があります。
しかし、治療上の限界もあります。神経根ブロックの治療効果は比較的永続的なのですが、なかには症状が再発し、結局手術を行わざるを得ない方もいます。症状が再発する方は、永続的効果が得られた方と比較しますと、退院時になんらかの症状を有している場合が多いことが分かっています。
- Q7.どこから注射の針を刺すのですか?
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腰やおしり~ふともも~すね~足に向かう脊髄神経は、腰椎の中で枝分かれして、腰椎と腰椎の間から左右に出て、足へと向かいます。この神経が腰椎から出ていくすぐ根元の部分に向けて、腰から針を刺します。
- Q8.どのような薬を使うのですか?
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神経根造影が行われる際には、造影剤というレントゲンに写る注射剤を使います。
神経根ブロックでは、神経に由来する痛みをとるために、神経に麻酔をかける局所麻酔薬であるリドカインやブピバカインという注射薬を使います。
造影剤や局所麻酔薬に対するアレルギー反応として、発疹、むくみ、息切れ、血圧低下、動悸などを稀に生じることがあります。これまでに、造影剤や局所麻酔薬を使った後(たとえば歯科での抜歯の時など)に気分不快や発疹、その他アレルギー反応を起こしたことがある方や、薬物アレルギーのある方は事前に担当医に知らせて下さるようお願いいたします。
また、強い痛みが急に生じている場合には、神経に強い炎症が急に起こっていると予測され、この炎症を鎮静化させる目的でデキサメタゾンというステロイドホルモン薬を局所麻酔薬といっしょに使うこともあります。
- Q9.どれくらい時間がかかるのですか?
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神経根ブロックそのものは、数分で済みます。しかし、ブロック後には足の神経がいったん麻痺しますので、歩きにくくなります。このため、神経根ブロック後は車イスで移動していただき、さらに30分~1時間はベッドの上で横になって休んでもらいます。
- Q10.神経根ブロック後に気を付けることはありますか?
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神経根ブロック後、ただちに足の一部が動かしにくくなりますが、これは局所麻酔薬によって神経根に麻酔がかかったためですので、心配ありません。
神経根ブロックでは、長い針を刺していますので、その穴から細菌が侵入し、化膿する恐れがあります。このため、神経根ブロックを受けた当日は入浴しないで下さい。翌日からはかまいません。
翌日以降、神経根ブロックの針を刺したところがひどく傷む場合や、背中や腰に強い痛みが出た場合、あるいは熱が出たりした場合には、当院まで至急連絡していただくか、受診して下さるようお願いいたします。
なお、神経根ブロックを行った結果、神経根ブロック前にあった症状がどれくらい良くなったか、何時間あるいは何日くらい効いていたかを良く覚えておいていただき、次回受診時に担当医にお知らせ下さい。
- Q11.神経根ブロックの合併症にはどのようなものがありますか?
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神経根ブロックの合併症として次のようなことが起こることがあります。
1.一時的な足の脱力:神経根ブロックによって神経根に麻酔がかかると、足に力が入りにくくなります。足の脱力が生じた場合には、自然に回復するまで30分~1時間くらい横になって休んでいてもらいます。足の脱力は一時的なもので、時間が経てば必ず元に戻ります。
2.局所麻酔薬による中毒:神経根ブロックのために局所麻酔薬を使った後、急に次のような症状を起こすことが極めて稀にあります。
1)口の周りや舌のしびれ感
2)めまい、頭がくらくらする
3)耳鳴り
4)目がくらむ、かすんで見える
5)手足の筋肉がピクピクけいれんする
6)気を失う
このような症状が出た場合は、酸素を吸ってもらい、さらに点滴を行って、局所麻酔薬が体内で分解されて、排泄されるまでの間、経過を観察します。局所麻酔剤が体から抜ければ自然に回復します。
3.細菌感染:極めて稀に、針を刺した部分から細菌が入り、化膿することがあります。背中が急に痛くなり、高熱が出て、さらに足がしびれてきて、思うように動かせなくなる麻痺が出現します。神経根ブロック後に背中が痛くなったり、発熱した場合には、当院まで至急連絡していただくか、受診して下さるようお願いいたします。
4.神経根刺激症状:極めて稀ですが、ブロックした後に足の痛みがかえって強くなる場合があります。注射によって神経根の炎症が強まってしまったためと考えられています。このような場合は、ほかの方法で痛みを速やかにとることができますので、がまんしたりせずに、当院まで至急連絡していただくか、受診して下さるようお願いいたします。