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マッケンジー法の一般的な患者アプローチは問診と理学検査から始まります。特に問診は重要で、およそ70%の診断がここでつくとも言われています。理学検査は主に反復運動検査を用いて行われます。これらの検査結果をもとにマッケンジー法のカテゴリーに分類します。カテゴリーの中で最も特徴的な項目である「Derangement Syndrome」の診断と治療では、「Directional Preference(良い反応を引き出せる運動方向)」を見つけ出すことが最重要課題となります。これを見つけ出すことが出来れば、その方向への反復運動、または持続的姿勢保持を行わせることで疼痛を緩和し、機能を改善させていくことが可能となります。ここで言う運動方向とは、腰椎を例に取ると、伸展のみでなく、時には屈曲、側屈、回旋と様々な可能性が考えられます。これがマッケンジー法における最も典型的な治療パターンとなります。
この流れの中でいくつかマッケンジー法の特徴が存在します。まずは「評価」です。マッケンジー法では問診と理学検査をもとにした評価に充分な時間をかけます。なぜならマッケンジー法そのものが「評価の体系」と言って良いほど問診と理学検査に重点をおいているからです。評価において「Centralization(良い反応)」がみられる方向が見つかれば、その方向への運動が治療そのものとして用いられます。もし評価において「Peripheralization(悪い反応)」を示す運動方向が見つかれば、その方向への運動は基本的に行いません。
もう一つの特徴としてマッケンジー法は患者主体の「self treatment(自己治療)」を基本的な治療方針として取り入れています。なぜなら再発を繰り返しやすい脊椎原性の問題にたいして「臨床家に依存する治療」を行っていては、いつまでたってもその場しのぎの治療から抜け出すことができないからです。特に腰痛を例にとってみると、はじめは軽い痛みでも再発を繰り返すうちに段々と重症化してくるケースが少なくありません。そこでマッケンジー法では「患者自身で治療する術」を身につけてもらいます。これにより再発を繰り返す前に患者自身で腰痛をコントロールしていける状態を作り上げてもらうのです。
もう一つ強調しておくべきことは、「マッケンジー法は決して万能薬ではない」ということです。評価のなかでいかなる運動検査においても良い反応が見られない患者は、マッケンジー法適応外として今後どのような治療方針が適切なのか患者、医師との話し合いの中で決めていきます。
Robin McKenzieが理学療法士としてまだ若かれし頃、彼はマニピュレーションを主体とした治療手技により患者の治療にあたっていました。
ある日彼はとても忙しいスケジュールのなか、スミス氏という患者を見ることになっていました。スミス氏は腰痛と下肢の坐骨神経痛を3週間前から訴えていましたが、どのような治療を行ってもよくなる傾向が見られなかったのです。Robinは待合室で待つスミス氏に「診察室に入り治療ベッドにうつむせになって寝ているように」と伝え数分その場を離れました。しかしそのベッドは前の患者の治療で背もたれを起こした状態にセットされたままになっていたのです。Robinが診察室に戻ってくるとスミス氏が腰を大きくそらした過伸展肢位で治療ベッドに寝ていたため、それを見たRobinは仰天しました。なぜなら50年前のニュージーランドでは、その姿勢は腰痛患者に最も悪い姿勢と考えられていたからです。Robinがスミス氏に今の状態を尋ねてみると、なんとスミス氏は今までで一番調子がよいと答えたのです。彼の下肢症状は消え、わずかな腰の痛みだけが残存するまでに改善しました。翌日、数分間また同じ姿勢をとってもらうと、わずかに残っていた腰の痛みも完全に消失したのです。
この体験をきっかけとしてRobinは研究と調査をかさね、現在の力学的診断と治療に基づいたマッケンジー法を体系作ったのです。
・ 最も発生頻度が高く幅広い年齢層に出現します。 ・ 椎間板内に加わる異常な圧力により線維輪に亀裂が生じます。 その亀裂内に髄核が進入することで、椎間板内に存在する侵害受容器が刺激を受け疼痛が誘発されます。 ・ 疼痛の出現の仕方は様々で、その部位も時間帯や姿勢によって腰部から下肢にまで拡がることがあります。 ・ Centralization現象がみられることがこの症候群の最大の特徴です。
・ 壮年期以降に見られることが多いです。 ・ 脊柱周囲の関節包や靭帯組織などの短縮、拘縮、癒着などが疼痛を引き起こす病態です。 ・ 疼痛は短縮した組織が体幹の動きに伴い伸張されることによって引き起こされます。 ・ 疼痛は短縮した組織が伸長されたときのみ出現します。 ・ 特殊な例を除き疼痛は腰部局所に留まります。
・ 多くは若年者に見られます。 持続的な姿勢保持が脊柱周囲の正常組織を伸長し、一過性の腰痛を引き起こすものです。 ・ 正常組織のストレッチペインが唯一の症状です。 ・ 長時間の「猫背姿勢」に伴う腰痛として出現します。 ・ 猫背姿勢から体位を変換すれば全く疼痛が残存することはありません。
脊椎腫瘍、脊柱管狭窄症、仙腸関節原性疼痛、心因性疼痛、結論不明 例など、上記以外の病態により引き起こされる腰痛をすべてOthersの カテゴリーに総括しています。
Directional Preferenceとは、「良い反応(Centralization現象など)を引き出せる運動あるいは姿勢の方向」と定義されている。例えば、下肢痛を伴った腰痛患者に対して、腰椎伸展の反復運動を行わせたとき、Centralization現象が認められたとする。この場合、「この患者にはDirectional Preferenceがある。その方向は腰椎伸展方向である」と表現できる。脊柱原性の痛みにおいて、ある方向にDirectional Preferenceが認められた場合、それとは逆方向への刺激を十分加えると悪い反応(Peripheralization現象など)が起こってしまう場合が多い。例えば、腰椎伸展がDirectional Preferenceのケースに対して腰椎屈曲を反復運動によって行わせると痛みが悪化してしまうのが一般的である。
評価において、Centralization現象、Peripheralization現象をしっかりと理解して、Directional Preferenceの有無を探求し、どの方向がDirectional Preferenceなのかを発見する事が非常に重要なのである。Directional Preferenceと同じ方向へ治療刺激をくわえた場合、Directional Preferenceとは逆方向へ治療刺激をくわえた場合に比べて統計学的に優位に良好な治療成績を示したという研究がある。
(マッケンジー概論・徒手的理学療法5(1):37-40,2005)
Centralization現象はマッケンジーが世界で最初に記載をした現象である。「脊柱原性の痛みにおいて、より遠位に感じられる痛みがある動作を行ったり、ある姿勢をとったりすることにより近位の身体部位に移動してくる、あるいは収束してくる現象」と定義されている。
脊柱原性の痛みを評価、マネージメントするうえで非常に重要な現象である。Centralization現象が認められれば、良好な予後が期待できるからである。Centralization現象と予後あるいは治療成績との関連については、これまでにいくつもの研究が発表されているが、いずれの研究においてもCentralization現象と良好な予後や治療成績との高い相関が示されえいる。
Centralization現象と相反するのがPeripheralization現象である。Peripheralization現象とは、「脊柱原性の痛みにおいて、ある動作を行う、あるいはある姿勢をとると、より近位に感じられる痛みが、より遠位の身体部位へ移動してゆく、あるいは広がってゆく現象」と定義されている。いかなる動作や姿勢によってもPeripheralization現象しか観察されない場合、Centralization現象が認められる場合に比べて予後が悪い、あるいは治療成績が不良である事がこれまでの研究によって示されている。
Centralization現象、Peripheralization現象は、痛みの部位の変化を捉えた現象である。痛みの評価として、「痛みの強さ」という面にだけ囚われがちであるが、それ以上に「痛みの場所の変化」を捉えることが、痛みの評価、そしてマネージメントにとって重要であることを強調したい。